📬 ロングセラー通信
毎日1冊、10年売れ続ける本の秘密をお届け。
無料・いつでも解除可能

本書は、出版社である中央公論社が創立70周年を記念して1955年に刊行した自社の歴史書です。明治19年(1886年)の創業から刊行当時までの歩みを、同社が発行してきた雑誌『中央公論』や『婦人公論』、数々の書籍を軸に詳述しています。内容は単なる年表や業績の羅列に留まりません。谷崎潤一郎や芥川龍之介といった文豪たちとの関わり、吉野作造の民本主義に代表される大正デモクラシー期の言論活動、そして戦時下の言論統制への対応など、日本の近代文学史・思想史における重要な出来事を、出版社の視点から記録したドキュメンタリーとなっています。一企業の社史でありながら、明治、大正、昭和という激動の時代を生きた日本の知性や文化の変遷を辿る一次資料としての側面を持つ一冊です。
本書が発売された1955年当時に売れた理由は、戦後復興期における読者の知的好奇心と、中央公論社というブランドが持つ権威性に応えたからだと考えられます。当時は戦後10年が経過し、社会が安定を取り戻す中で、多くの人々が戦前の文化や失われた時代を振り返り、自分たちのアイデンティティを再確認したいという欲求を持っていました。そのような時代背景において、明治以来日本の言論界・文壇の中心にあり続けた中央公論社の歴史は、そのまま日本の近代史を振り返る魅力的な物語として受け止められたことでしょう。他の企業の社史が内向きの記念品としての性格が強いのに対し、本書は『中央公論』を愛読してきた知識人や学生層に対し、谷崎潤一郎ら文豪との交流秘話や言論弾圧との闘いといった、普段は知り得ない出版社の「内側」を公開しました。これは、日本の知の歴史の舞台裏を覗き見たいという読者のニーズを的確に捉えた、強力なコンテンツだったと推測されます。
では、なぜ売れ続けたのか?