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本書は、油脂およびその関連物質を化学的な視点から体系的に解説した学術書です。内容は、脂肪酸やグリセリドといった油脂を構成する成分の化学構造と命名法から始まり、それらの物理的・化学的性質、抽出・精製方法、そして鹸化価やヨウ素価といった古典的な分析法について詳述されています。さらに、油脂の工業的応用として、硬化油、脂肪酸、石鹸、グリセリン、界面活性剤、塗料などの製造プロセスとその原理についても網羅的に扱っています。特定の最新技術を追うのではなく、油脂化学という学問分野の根幹をなす普遍的な知識と原理を、初学者である学生や現場の技術者に向けて平易かつ論理的に整理して提供することを目的とした一冊と考えられます。
本書が発売された1956年当時に広く受け入れられた理由は、戦後の高度経済成長期という時代背景と、それに伴う産業界および学術界の強いニーズに応えたからだと考えられます。当時の日本は重化学工業が急速に発展し、油脂化学の知見は石鹸、塗料、食品加工(マーガリンなど)といった基幹産業の技術革新に不可欠でした。多くの企業が、現場で役立つ体系的な知識を求めていたと推測されます。一方で、大学教育の現場においても、この分野を網羅した日本語の標準的な教科書は限られていました。海外の専門書に頼らざるを得ない状況で、国内の第一人者によって執筆された本書は、学生や若手研究者にとって待望の一冊だったことでしょう。さらに、「岩波全書」という権威あるシリーズから刊行されたことが、内容への信頼性を担保し、学術書としての「定番」の地位を発売初期から確立する上で大きな役割を果たしたと考えられます。
では、なぜ売れ続けたのか?

(1956年)