📬 ロングセラー通信
毎日1冊、10年売れ続ける本の秘密をお届け。
無料・いつでも解除可能
本書は、大正天皇、昭和天皇の二代にわたり宮内省(現・宮内庁)の主厨長を務めた料理人、秋山徳蔵の自伝です。福井の少年が料理の世界に飛び込み、東京での下積み、フランス・パリでの厳しい修業を経て「天皇の料理番」という大役に就くまでの半生が綴られています。内容は、フランス料理の技術や宮中の献立紹介にとどまりません。華やかな饗宴の舞台裏、戦中戦後の食糧難における献立の苦心、そして明治・大生・昭和という激動の時代を、食のプロフェッショナルとしていかに生き抜いたかという著者の哲学や矜持が、実直な筆致で描かれています。一人の職業人の記録を通して、近代日本の食文化史の一端を垣間見ることができる作品です。
1957年当時、本書が多くの読者を惹きつけた理由は、主に二つの強い欲求を満たした点にあると考えられます。第一に、ヴェールに包まれた「宮中」、特に「天皇の食生活」という、国民にとって最も神秘的でプライベートな領域への強い好奇心です。戦後、天皇が象徴となってもなお、その日常への関心は非常に高く、食を司る最高責任者による内部からの証言は、他に類を見ない強力な魅力を持っていました。第二に、高度経済成長期を迎え、西洋文化への憧れが高まる中で、「フランス料理」という最先端の食文化を極めた人物の物語への関心です。多くの庶民にとって未知の世界であった高級料理の裏側や、本場パリでの修業話は、文化的な知的欲求を満たす格好のコンテンツでした。これら「権威への覗き見趣味」と「西洋文化への憧れ」という二つの強力な動機が組み合わさった結果、単なる自伝を超えたベストセラーになったと推察されます。
では、なぜ売れ続けたのか?
