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本書は、ドイツ文学者である小宮義孝が戦前の中国、特に北京を訪れた際の体験を綴った随筆集です。中心的な題材として、後に取り壊されることになる北京の雄大な城壁が据えられており、その圧倒的な存在感や歴史の重みが克明に描写されています。また、城壁だけでなく、迷路のような胡同(フートン)の路地裏で繰り広げられる庶民の暮らし、市場の活気、伝統的な風俗や文化など、著者の鋭い観察眼を通して捉えられた「古き良き中国」の姿が、格調高い文章で生き生きと描かれています。単なる紀行文に留まらず、西洋的な知性と東洋的な感性をもって、失われゆく風景の背後にある文化や人々の精神性に迫る思索の書となっています。
本書が発売された1949年は、日本が敗戦から復興途上にあり、一方で中国では国共内戦が終結し中華人民共和国が成立した激動の年でした。この時代背景が、本書のヒットに大きく寄与したと考えられます。まず、多くの日本人にとって、大陸は戦争の記憶や引き揚げ体験と結びつく場所であり、もはや自由に行けなくなった「失われた故郷」でした。本書が描く戦前の穏やかな中国の風景は、そうした人々の強い郷愁を掻き立てたことでしょう。また、共産化によって「竹のカーテン」の向こう側となった中国は、未知の世界としての関心も集めていました。当時の中国に関する出版物が政治的な論評や戦争体験記に偏りがちだった中で、本書はイデオロギーから距離を置き、一個人の審美眼を通して文化や風景そのものを文学として描きました。この非政治的な姿勢と、夏目漱石門下という著者の権威性が、文化的な飢餓感の中にあった読者層に質の高い読み物として受け入れられたと推測されます。
では、なぜ売れ続けたのか?
