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本書は、写真技術の黎明期を、発明者の一人であるルイ・ジャック・マンデ・ダゲールの生涯を軸に描き出すノンフィクションです。単なる技術的な発明史にとどまらず、「東西写真発明奇譚」という副題が示すように、ダゲールとニエプスによる発明競争や協力関係、その後の特許をめぐる駆け引きといった人間ドラマに焦点を当てています。さらに、西洋で生まれた写真技術が、幕末から明治にかけての日本へといかにして伝わり、受容されていったかという文化伝播の物語も織り交ぜられています。著者の石黒敬七による軽妙で物語的な筆致により、専門知識がなくとも読める、エンターテイメント性の高い歴史読み物として構成されているのが特徴です。
本書が発売された1937年当時、日本は写真文化の勃興期にあったと考えられます。ライカに代表される小型カメラの登場によりアマチュア写真家が増加し、写真技術そのものへの知的好奇心が高まっていた時代でした。多くの類書が撮影技法や現像方法を解説する実用書であった中で、本書は写真の「起源」を巡るドラマチックな物語を提供した点で決定的に異なっていたと推測されます。
また、著者の石黒敬七はフランス文学者として知られ、パリの空気をまとった洒脱な文化人として認識されていました。その著者が語るフランス発の発明物語は、西洋文化への憧れを持つ当時の知識層や文化愛好家にとって、非常に魅力的に映ったことでしょう。「奇譚」と銘打つことで、単なる伝記ではなく、発明の裏側にあるゴシップや人間臭いエピソードへの期待感を煽り、技術書とは異なる一般読者層の獲得に成功したと考えられます。
では、なぜ売れ続けたのか?
