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本書は、法律という体系が内包する根本的な「矛盾」と、それがどのように「調和」を保っているのかというメカニズムを解き明かす法哲学の古典です。著者の牧野英一は、法を固定された条文の集合体としてではなく、個人の自由と社会の秩序、形式的な正義と実質的な公平といった、常に対立する価値観がせめぎ合う動的なプロセスとして捉えます。本書を通じて論じられるのは、これらの二律背反的な要素が、立法や司法といった実践の場でいかに調整され、一つのシステムとしての整合性を維持しているかという点です。特定の法律知識を解説する実用書とは異なり、法の根源にある緊張関係や、物事を多角的に捉えるための思考の枠組みそのものを読者に提示することを目的とした一冊と言えます。
本書が発売された1919年当時に広く受け入れられた背景には、大正デモクラシーという時代の空気と、当時の法学界が抱えていた知的ニーズに応えた点があると考えられます。第一次世界大戦が終結し、社会が大きく変動する中で、旧来の価値観や権威は揺らぎ始めていました。法学の世界においても、ドイツ法学を基礎とする厳格で形式論理的な「概念法学」への疑念が生まれ、より社会の実態に即した柔軟な思考が求められていた時期でした。多くの法律書が既存の法解釈に終始する中、本書は「矛盾」という法の根源的な課題を正面から取り上げ、それを「調和」させる動的なプロセスとして法を捉え直しました。この視点は、硬直した学問に満足できない学生や知識人にとって非常に刺激的であったと推測されます。社会の複雑な現実を理解するための新しい知のツールとして、変革を求める当時の読者層に強く支持されたのではないでしょうか。
では、なぜ売れ続けたのか?
