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本書は、明治の夭折した天才女流作家、樋口一葉の小説作品を集成した全集の第2巻です。1953年に筑摩書房から刊行されたものの一冊で、一葉の代表作である「たけくらべ」「にごりえ」「十三夜」をはじめ、「大つごもり」「わかれ道」といった珠玉の短編が収録されています。その内容は、明治時代の東京下町を舞台に、貧困や社会的な制約の中で生きる人々の、特に女性のやるせない心情や微細な心理の揺れ動きを、格調高い擬古文体で克明に描き出すものです。読者は本書を通じて、近代日本文学が成立する過渡期におけるリアリズムの到達点と、時代を超えて人の心を打つ物語の世界に触れることができます。
本書が発売された1953年当時、日本は戦後の混乱期を脱し、経済復興と共に文化的な関心が高まり始めた時期でした。特に、新憲法下で男女同権がうたわれ、女性の教育機会や社会的地位が向上する中で、近代日本の女性作家の草分けである樋口一葉への再評価の機運が高まっていたと考えられます。同時代の夏目漱石や森鷗外といった男性作家の全集とは異なり、「夭折の天才女性作家」という一葉の特異な存在は、新しい時代の女性読者にとって、自らのアイデンティティのルーツを探る上で強い関心と共感を呼んだのではないでしょうか。また、体系的に作品を網羅した「全集」という形式が、戦後の知的好奇心旺盛な読者層に対し、権威ある文学的教養を手に入れるという所有欲を満たしたことも、販売を後押しした要因と推察されます。
では、なぜ売れ続けたのか?

(1953年)