📬 ロングセラー通信
毎日1冊、10年売れ続ける本の秘密をお届け。
無料・いつでも解除可能
本書は、マルクス主義歴史家である服部之総が、浄土真宗中興の祖・蓮如を分析した歴史書です。単なる宗教家の伝記ではなく、室町時代後期の社会変動期における思想家、組織家、そして民衆運動の指導者としての蓮如の姿を浮き彫りにします。本書は、蓮如の教えそのものの解釈よりも、彼がどのようにして「御文(御文章)」というメディアを用いて広範な民衆を組織し、一向一揆へと繋がる巨大な社会勢力を形成したのか、その過程を唯物史観の視点から解明することを試みています。宗教現象を社会経済的な構造の中で捉え、蓮如の行動原理と歴史的役割を客観的に描き出すことを目的としています。
本書が1955年当時に売れた理由は、戦後の新しい歴史観を求める知的欲求に合致したためと考えられます。当時は戦前の皇国史観が否定され、歴史を科学的に捉え直そうとする気運が知識層や学生の間で高まっていました。特に、マルクス主義歴史学はアカデミズムで強い影響力を持ち、民衆を歴史の主体と見なす視点が強く支持されていました。このような時代背景において、従来は信仰の対象であった蓮如を、社会構造を変革する原動力として分析する本書のアプローチは、極めて新鮮で刺激的だったと推測されます。宗教的な伝記や英雄譚とは一線を画し、唯物史観という明確な分析ツールで社会現象のメカニズムを解明しようとした点が、当時の読者が求めた「科学的な歴史認識」に応えるものだったのです。権威ある岩波新書からの刊行という点も、教養に関心を持つ読者層への信頼性を高めた一因でしょう。
では、なぜ売れ続けたのか?

(1955年)