📬 ロングセラー通信
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本書は、古代ギリシアの詩人ホメロスによって作られたとされる叙事詩『イリアス』の前半部分(第1歌から第12歌まで)を収録した文庫本です。物語の舞台は、10年目に突入したトロイア戦争。ギリシア軍の総大将アガメムノンとの対立により、最強の英雄アキレウスが戦線を離脱するところから始まります。アキレウスの怒りを物語の主軸に据え、神々が介入する人間たちの激しい戦闘、英雄たちの武勇や苦悩、そして彼らの名誉をかけた駆け引きが壮大なスケールで描かれます。西洋文学のあらゆるジャンルの源流とされ、登場人物の心理描写や運命の非情さといった普遍的なテーマを扱っています。
1992年当時、本書が売れた背景には、教養主義的な読書文化が根強く残っていたことが考えられます。バブル経済が終焉を迎え、物質的な豊かさから精神的な深みや普遍的な知性へと人々の関心が移る中で、西洋文化の根源を知るための「必読書」としての需要が高まったと推測されます。特に、大学の講義やゼミで参考文献として指定されることが多く、学生を中心に安定した購買層が存在していました。類書である他の翻訳と比較して、岩波文庫というブランドが持つ「古典翻訳の権威性」と、呉茂一による格調高くも読みやすいと定評のある訳文が、読者に「まずこれを読んでおけば間違いない」という安心感を与えたと考えられます。文庫という手に取りやすい形態も、古典への入り口としてのハードルを下げ、幅広い層に受け入れられる要因となったのではないでしょうか。
では、なぜ売れ続けたのか?
