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心理学者である松本亦太郎が、東洋の山水画と人物画を題材に、鑑賞者の心理的体験を分析した書籍です。本書は美術史や技法解説書とは一線を画し、絵画を「見る」という行為そのものに内在する心理プロセスを解き明かすことを目的としています。
具体的には、山水画の余白が鑑賞者の想像力をどう喚起するのか、人物画の仕草がどのような感情移入を引き起こすのかといったテーマを、西洋の実験心理学の知見を用いて論じています。鑑賞者が絵画とどのように相互作用し、美的体験が生まれるのかというメカニズムを、具体的な作品を例に挙げながら平易な言葉で解説しています。絵画鑑賞を、受動的な「見る」行為から、意味を能動的に構成する「読む」行為へと捉え直す視点を提供します。
本書が1940年頃に売れた理由は、当時の時代精神と学問的潮流が交差する点に独自のポジションを築いたからだと考えられます。
当時、日本は戦時下にあり、西洋崇拝から転じて東洋の伝統文化を見直す機運が高まっていました。このような時代背景の中で、本書は単なる美術解説ではなく、西洋の最新科学である「心理学」を用いて東洋の山水画を分析するという斬新なアプローチを提示しました。これは、伝統文化の価値を情緒的に語るのではなく、科学的・客観的な手法でその普遍性を解明しようとする試みであり、当時の教養層の知的好奇心を強く刺激したと推測されます。
美術史家による専門的な解説書とは異なり、鑑賞者の「心」の動きに焦点を当てたことで、専門知識がない読者でも美術鑑賞の深奥に触れることができるという間口の広さを提供しました。東洋文化への回帰という大きな流れの中で、「科学による伝統の再発見」というユニークな切り口が、類書との明確な差別化を生み、読者の支持を集める要因になったと考えられます。
では、なぜ売れ続けたのか?
