📬 ロングセラー通信
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本書は、文学作品としての『源氏物語』の美的解釈や登場人物の分析を目的とするのではなく、物語が成立してから後世に書き写されていく過程で生じた本文の異同を比較・検討する「文献学」というアプローチを取る研究書です。具体的には、青表紙本や河内本といった主要な写本系統を対象に、どの写本にどのような語句が使われているのかを緻密に比較し、本文がどのように変化し伝わってきたのかを実証的に明らかにします。読者は、物語の内容そのものではなく、我々が今日読む『源氏物語』というテキストが、いかにして形成されてきたかという伝承の歴史を、科学的な手続きに沿って追体験することになります。これは、物語の「鑑賞」ではなく、物語のテキストそのものの成り立ちを探る学術的探究と言えます。
本書が発売された1944年当時は太平洋戦争の末期であり、学術書の出版自体が極めて困難な状況でした。そのような時代背景において本書が刊行されたこと自体が、その学術的重要性の高さを物語っていると考えられます。当時の『源氏物語』研究は、文学的な鑑賞や主観的な解釈が主流でしたが、本書はそれらとは一線を画し、本文の異同という客観的なデータに基づいて議論を進める「文献学」という実証的な方法論を体系的に提示しました。この科学的なアプローチは、学問としての国文学研究を新たな段階へ進めるものとして、専門家や研究者の間で強く希求されていたニーズに応えるものであったと推測されます。時局に流されない普遍的な学問への渇望があったであろう研究者コミュニティにとって、本書はまさに待望の一冊であり、学界における必読書として受け入れられたことが、専門書としての成功の要因だと考えられます。
では、なぜ売れ続けたのか?
