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本書は、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲の中から、初期の代表的喜劇『夏の夜の夢』と、最後の単独執筆作品とされるロマンス劇『あらし』の2作品を収録した文庫本です。『夏の夜の夢』は、アテネの森を舞台に、妖精のいたずらによって4人の若い男女の恋模様が混乱し、一夜のうちに収束していく様を描きます。一方、『あらし』は、魔法の力を持つミラノ大公プロスペローが、弟の策略で追放された孤島を舞台に、復讐と和解、そして娘の未来をめぐる物語を展開します。本書は、キャリアの異なる時期に書かれた幻想的な2作品を併録することで、読者がシェイクスピアの持つ作風の幅広さと、その劇作術の変遷を1冊で体験できるよう構成されています。
本書が1971年当時に売れた理由は、時代の教養欲求と、翻訳者・福田恆存が確立した圧倒的なブランド力が合致したことにあると考えられます。高度経済成長を経て、大衆の文化・教養への関心が高まる中、多くの読者が世界文学の古典に触れる手段として、手軽な文庫本を求めていました。その中で本書は、単なる古典の翻訳に留まりませんでした。訳者である福田恆存は、それまでの逐語訳的な翻訳とは一線を画し、日本語としての格調高さと演劇の台詞としての躍動感を両立させた「読ませる翻訳」の第一人者として、すでに高い評価を確立していました。「シェイクスピアを読むなら福田訳で」という権威性が、読者にとって強力な選択理由となったのです。さらに、初期の喜劇と晩年のロマンス劇という対照的な2作を1冊にまとめた新潮文庫の編集方針も、シェイクスピア入門としてコストパフォーマンスが高く、多様な読者層に訴求した要因と推測されます。
では、なぜ売れ続けたのか?
