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本書は、発話が困難な重度の自閉症を持つ著者・東田直樹氏が、13歳の時に文字盤ポインティングを用いて自身の内面世界を綴ったノンフィクション作品です。構成は58のQ&A形式となっており、「なぜ、急に大きな声を出すのですか?」「なぜ、同じことを何度も聞くのですか?」といった、周囲の人々が抱く素朴な疑問に対し、当事者である著者自身の視点から率直に答えていきます。
本書の目的は、自閉症の症状を医学的に解説することではありません。感覚の過敏さ、記憶の仕組み、感情の表現方法など、外部からは理解しにくい自閉症者の内なる論理や世界観を、詩的かつ平易な言葉で「翻訳」し、読者に直接届けることにあります。自閉症というフィルターを通して見える独特の世界を、当事者の「生の声」として伝えることで、他者理解の新たな扉を開く一冊と言えます。
本書が2016年頃に大きな注目を集めた最大の要因は、海外での成功を背景とした「逆輸入」現象にあると考えられます。2013年に英国で出版された翻訳版『The Reason I Jump』が世界的なベストセラーとなり、その評価が日本国内での再注目の起爆剤となりました。この国際的な権威付けは、メディアが取り上げる格好のフックとなり、普段このジャンルの本を読まない層にもリーチするきっかけとなったと推測されます。
また、当時の社会背景として、発達障害への関心が一般層にまで広がり始めた時期であったことも重要です。多くの関連書籍が出版されていましたが、その大半は専門家による解説書か、親や支援者視点からの手記でした。これに対し、本書は発話困難な当事者が自らの内面を「直接語る」という、他に類を見ない圧倒的な独自性を持っていました。読者は、これまで謎に包まれていた自閉症者の世界を、第三者の分析ではなく当事者の案内で旅するという、全く新しい読書体験に魅力を感じたのではないでしょうか。Q&A形式という構成も、専門知識のない読者にとっての参入障壁を下げ、ヒットを後押しした要因と考えられます。
では、なぜ売れ続けたのか?
