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本書は、1954年に刊行された『現代中国文学全集』の第7巻として、中国の近代文学を代表する作家・巴金(パ・チン)の作品を収録した選集です。具体的には、封建的な家族制度との葛藤を描いた代表作『家』をはじめとする「激流三部作」など、彼の主要な小説や散文が邦訳で収められていると考えられます。本書の目的は、一人の作家に焦点を当てることで、20世紀前半の激動の中国社会とその中で生きる人々の苦悩や抵抗を、文学作品を通して日本の読者に体系的に紹介することにあります。作品本文だけでなく、作家の生涯や時代背景に関する解説も含まれ、読者が巴金文学の世界を多角的に理解できるよう構成されているのが特徴です。あくまで文学作品の紹介を主眼としており、特定の政治的・思想的主張を目的とした書籍ではありません。
本書が発売された1954年当時、日本は戦後の混乱から立ち直りつつある一方、冷戦構造の最中にありました。隣国でありながら社会体制の異なる「新しい中国」への関心は、政治的な緊張とは裏腹に、知識人や学生層の間で非常に高まっていたと考えられます。そのような時代背景において、中国近代文学を体系的に紹介する「全集」という企画自体が、読者の知的好奇心を満たす画期的な試みでした。
特に巴金は、旧来の家父長制への反発や、社会の変革を求める若者の苦悩といった普遍的なテーマを描いたため、戦後の価値観が大きく変化していた日本の読者にとっても、強い共感を呼び起こす存在だったと推測されます。個別の翻訳書が散発的に出版される中で、一人の作家の代表作を網羅し、解説と共に提供する本書の形式は、断片的な情報ではなく、まとまった知識を求める読者層のニーズに的確に応えました。進歩的な思想を持つ人々にとって、巴金文学は、遠い国の物語でありながら、自らの問題意識と重ね合わせて読める魅力的なテクストとして受け入れられたのではないでしょうか。
では、なぜ売れ続けたのか?

(1954年)