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本書は、前衛芸術家・草間彌生の半生を本人の筆で綴った自伝です。物語は、幼少期に体験した幻覚や、厳格な家庭環境で芸術への渇望を募らせた時代から始まります。そして、芸術家としての成功を夢見て単身渡米し、1960年代のニューヨークで前衛芸術の旗手として注目を浴びるまでの苦闘と栄光が描かれます。さらに、心身のバランスを崩して帰国した後、精神科病院を生活と制作の拠点と定め、再び世界的な名声を得るに至る現在までの道のりが、自身の内面世界や創作の源泉と深く結びつけながら、赤裸々な言葉で語られていきます。本書は、一人の芸術家の個人的な記録であると同時に、その特異な作品世界を理解するための重要なテキストとしての役割も担っています。
本書が発売された2003年当時に売れた理由は、草間彌生というアーティストへの再評価が最高潮に達していたタイミングと、書籍が持つ特異な内容が合致したためと考えられます。1990年代後半から国内外で大規模な回顧展が相次ぎ、草間彌生の名はアートファン以外にも広く浸透し始めていました。メディアでの露出も増え、そのユニークな風貌と作品への関心が高まる中、満を持して出版されたのがこの自伝でした。
多くのアーティスト自伝が成功譚や芸術論に終始する中で、本書は自身の精神的な苦悩、幻覚、強迫観念といった極めて個人的な体験を創作の源泉として包み隠さず開示した点が画期的でした。これは単なる「天才芸術家の告白」にとどまらず、社会との軋轢の中で自己を貫こうとする人間の普遍的な物語として、新しい生き方を模索していた当時の読者層に強く響いたのではないでしょうか。アーティストへの注目度の高まりという外的要因と、その期待に応えつつも裏切るような強烈な内面世界の開示という内容的要因が、発売当初のヒットを生み出したと推測されます。
では、なぜ売れ続けたのか?

(2003年)