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本書は、戦前の天才登山家と称された松濤明の遺稿を編纂した山岳ノンフィクションです。作品の中核をなすのは、1949年1月に著者自身が槍ヶ岳北鎌尾根で遭難死する直前まで書き続けた手記「風雪のビヴァーク」です。この手記は、猛吹雪の中で食料も尽き、死が目前に迫る極限状況下における、人間の精神状態、孤独、そして生への渇望を、克明かつ冷静な筆致で記録したドキュメントとなっています。その他、著者が生前に遺した複数の登山記録や山岳随筆も収録されており、一人の登山家の視点を通して、登山という行為の持つ厳しさと崇高さ、そして自然と対峙する人間の内面を深く描き出しています。
本書が2010年頃に売れた背景には、当時の登山ブームが大きく関係していると考えられます。この時期、「山ガール」という言葉に象徴されるように、登山は若者や女性層にも広がり、一種のファッションやライフスタイルとして消費される側面がありました。多くの登山ガイドブックや軽快な体験記が出版される中で、ブームをきっかけに登山の本質や歴史、精神性に関心を持つようになった層が一定数生まれたと推測されます。そうした本格志向の読者にとって、戦前の登山家による壮絶な遭難手記を収めた本書は、単なる趣味の対象ではない「山の厳しさ」を伝える「本物」の記録として際立って見えたことでしょう。ヤマケイ文庫という手に取りやすい形態で「新編」として出版されたことも、古典的名著を新たな読者層に届ける上で重要な役割を果たしました。ブームの華やかさとは対極にある、生々しいドキュメントとしての価値が、当時の市場において強力な差別化要因として機能したと考えられます。
では、なぜ売れ続けたのか?
