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武田百合子の没後に刊行されたエッセイ集です。本書は、食にまつわる未発表原稿を中心に編纂されており、著者の日常や記憶が「食」というプリズムを通して描かれています。内容は、夫・武田泰淳との何気ない食卓の風景、旅先での忘れられない食事、幼少期の記憶に結びついた味など多岐にわたります。しかし、単なるグルメエッセイやレシピ集とは異なり、料理そのものの描写よりも、それに付随する人間関係、場の空気、そして著者の内面的な思索が中心に据えられています。独特の距離感を保った観察眼と、簡潔でありながら五感に強く訴えかける文章によって、ありふれた日常の食事が、読者の記憶に刻まれる鮮烈なワンシーンとして切り取られているのが特徴です。食を通じて、著者の研ぎ澄まされた感性と世界観に触れる一冊といえます。
本書が1991年に発売された当初に受け入れられた理由は、主に二つの側面から考えられます。第一に、著者である武田百合子が持つ強固なブランド力です。『富士日記』などで既に熱狂的なファン層を確立していた彼女の「未発表遺稿集」という位置づけは、発売前から読者の高い期待を集める要因となりました。彼女の死を惜しむ読者にとって、その独特の文体と世界観に再び触れられることは、抗いがたい魅力だったと推測されます。第二に、当時の「食エッセイ」市場における特異なポジショニングです。1990年代初頭はバブル期のグルメブームの名残がありつつも、人々の価値観が物質的なものから内面的な豊かさへとシフトし始めた時期でした。多くの食に関する書籍が料理法や食文化の蘊蓄を語る中で、本書は食を媒介として個人の記憶や死生観といった内面を深く掘り下げる文学的なアプローチを取りました。この姿勢が、既存の食エッセイに飽き足らない、より本質的な読み応えを求める読者層のニーズを捉えたと考えられます。
では、なぜ売れ続けたのか?