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(2010年)
本書は、音響現象である「倍音」を鍵として、音楽、言語、身体文化の深層的な関係性を解き明かす文化論です。著者は尺八奏者としての長年の実践知に基づき、音を単なる物理現象としてではなく、文化を形成する根源的な要素として捉え直します。その射程は、モンゴルの喉歌「ホーミー」や日本の仏教音楽「声明」といった特殊な発声法から、日常的な日本語の発音、さらには武術や呼吸法における身体運用にまで及びます。これらの多様な事象に共通して存在する「倍音」の役割を、具体的な事例を豊富に交えながら分析し、西洋近代的な価値観の中で見過ごされてきた音の豊かさと、それが人間の知覚や文化に与えてきた影響を論じています。専門的なテーマを扱いながらも、身体感覚に訴えかける筆致で、読者を音と文化の奥深い世界へといざなう一冊です。
本書が発売された2010年頃に多くの読者を獲得した理由は、専門分野を横断する独自の切り口が、当時の知的好奇心の潮流と的確に合致したためと考えられます。この時期は、脳科学ブームなどを背景に、科学的な知見と身体感覚を結びつけるテーマへの関心が高まっていました。また、ヨガや武術といった身体技法への注目も広がり、分析的な西洋知だけでなく、東洋的な身体知や統合的なアプローチを求める読者層が確実に存在していました。本書は、単なる音楽理論書や発声法の技術書とは一線を画します。尺八奏者である著者自身の身体を通した実践知に基づき、「倍音」という一つの現象を軸に、音楽、言語、武術までを接続する壮大な視座を提供しました。このアカデミックな深さと身体的なリアリティの融合が、類書にはないユニークな価値となり、音楽家や声の専門家といったコア層だけでなく、「自らの身体や感覚の世界を深く探求したい」と願う一般読者をも強く引きつけたのだと推察されます。
では、なぜ売れ続けたのか?