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本書は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハが作曲した鍵盤楽器のための作品集『平均律クラヴィーア曲集 第1巻』の楽譜です。全24の長調および短調それぞれで書かれた前奏曲(プレリュード)とフーガ、計48曲が収録されています。本書の特徴は「原典版」である点です。これは、作曲者の自筆譜や信頼性の高い初期の筆写譜など、根源的な資料に基づいて校訂された楽譜を指します。演奏解釈や運指などが書き加えられた版とは異なり、作曲者が意図したであろう音符や記号を可能な限り忠実に再現することを目的としています。そのため、ピアニストやチェンバロ奏者、音楽研究者、そして専門的に学ぶ学生が、バッハの音楽を分析し、自身の解釈を構築するための基礎資料として用いられます。
本書が発売された1956年頃の日本は、戦後の復興を経て、西洋文化、特にクラシック音楽への関心と教育熱が高まっていた時代と考えられます。ピアノが一般家庭にも普及し始め、専門的な音楽教育を受ける層が厚みを増す中で、学習者のニーズも高度化していました。それまで主流だった、編集者による解釈や装飾、運指が大きく加えられた教育的な楽譜に対し、作曲者本来の姿を探求しようとする「原典志向」が、本格的な学習者や指導者の間で芽生え始めた時期と推測されます。そのような状況下で、フランツ・クロルによる校訂版は、19世紀のバッハ協会旧全集に由来する学術的な権威を持っていました。他の解釈版と比較して、作曲家のテキストに忠実であろうとするその姿勢が、「本物」を求める当時の読者層のニーズに合致したと考えられます。信頼できる原典版へのアクセスが限られていた時代において、学術的背景を持つ本書が安定して供給されたこと自体が、売上を牽引する大きな要因となったのではないでしょうか。
では、なぜ売れ続けたのか?
