📬 ロングセラー通信
毎日1冊、10年売れ続ける本の秘密をお届け。
無料・いつでも解除可能
本書は、岡山県倉敷市を拠点に活動した実業家・大原孫三郎の生涯を描いたノンフィクションです。父から受け継いだ倉敷紡績の経営を近代化する一方で、私財を投じて倉敷中央病院、大原社会問題研究所、そして世界的なコレクションを誇る大原美術館などを次々と設立した彼の足跡を追います。「わしの眼は十年先が見える」という信念のもと、目先の利益にとらわれず、社会や労働者の未来のために投資を続けた孫三郎の経営哲学と、その根底にある人間観を浮き彫りにします。単なる成功物語ではなく、彼の抱えた葛藤や周囲との摩擦も含め、社会貢献と事業を両立させようとした一人の人間の思想と行動の軌跡を、城山三郎の丹念な筆致で描き出した作品です。
本書が発売された1997年当時は、バブル経済崩壊後の「失われた10年」の最中にありました。多くの企業が経営不振に陥り、リストラが横行するなど、日本経済全体が閉塞感に覆われていた時代です。このような状況下で、短期的な利益追求型の経営モデルへの疑問が生まれ始めていたと考えられます。読者、特にビジネスパーソンや経営者層は、先行きの見えない時代を乗り越えるための新たな指針や、確固たるビジョンを持つリーダー像を渇望していました。そこに現れたのが、利益度外視とも思えるほどの長期的視点で社会事業に投資した大原孫三郎の生き様です。彼の物語は、単なる儲け話ではなく、「事業を通じて社会をどう良くしていくか」という根源的な問いを突きつけました。経済小説の大家である城山三郎氏が描くという信頼性も相まって、当時の閉塞感を打破するヒントを求める読者のニーズに合致し、強く支持されたと推測されます。
では、なぜ売れ続けたのか?

(1997年)