📬 ロングセラー通信
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本書は、建築家であり東京帝国大学教授であった岸田日出刀が、古今東西の「扉」という建築要素一つに焦点を当て、その歴史、意匠、機能、文化的意味合いを深く探求した一冊です。世界各地の様々な扉の写真や図版を豊富に掲載し、それらに対する著者の専門的な知見と詩的な思索を綴った随筆で構成されています。単なる建築の学術書やデザインの資料集に留まらず、扉というフィルターを通して建築美の本質や人間と空間の関係性を考察する、ユニークな視点を提供します。読者は、具体的な扉の形態を鑑賞しながら、その背後にある普遍的な美学や文化論に触れることができます。
本書が発売された1942年頃は、太平洋戦争の最中にあり、国民生活が極度の緊張と制約の下にあった時代です。このような状況において、本書が多くの読者に受け入れられた背景には、いくつかの要因が考えられます。まず、戦時下の厳しい現実から一時的に離れ、静謐で普遍的な美の世界に浸りたいという読者の潜在的なニーズに応えた点が挙げられます。海外渡航が不可能であった当時、世界中の美しい扉に触れることは、知的な慰めであり、一種の精神的な逃避を提供したと推察されます。また、単なる写真集ではなく、東京帝国大学教授という権威ある著者による深い洞察が付随していたことも重要です。これにより、読者は単なる気晴らしではない、確かな知的満足感を得ることができました。「扉」という一つの要素に特化したその専門性は、他の包括的な建築書とは一線を画し、暗い時代の中で確かな手触りのある知識と美を求める人々の心をとらえたと考えられます。
では、なぜ売れ続けたのか?
