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本書は、19世紀ロシアの文豪アレクサンドル・プーシキンによる5つの短編を収めた作品集です。物語は、架空の地主イワン・ペトローヴィチ・ベールキンが様々な人物から聞き集めた話という設定で構成されており、作者自身は編者という立場をとっています。収録作は、決闘を巡るプライドを描く『射撃』、恋人たちの運命が吹雪によって狂わされる『吹雪』、死を商売にする男の奇妙な体験を描く『葬儀屋』、娘に裏切られた老駅長の悲哀を描く『駅長』、そして身分違いの恋の行方を軽快に描く『百姓令嬢』の5編です。恋愛、名誉、死、身分差といったテーマを通じて、当時のロシア社会に生きる人々の人間模様を、簡潔かつ洗練された散文で描き出しています。
本書が1955年当時に売れた理由は、戦後復興期における日本人の教養への渇望と、海外文学への関心の高まりに応えたからだと考えられます。当時の日本は高度経済成長期に差し掛かり、人々は精神的な豊かさを求めるようになりました。特にロシア文学は、トルストイやドストエフスキーに代表されるように、人間の魂の深淵を描くものとして知識人層から強い支持を得ていました。
その中で本書は、他の重厚長大なロシア文学作品とは一線を画す「読みやすさ」という点で、独自の地位を築いたと推測されます。プーシキンの簡潔でテンポの良い物語は、海外文学の入門書として最適でした。短編集という形式も、多忙な生活の中でも手に取りやすいという利点がありました。岩波文庫などの廉価な文庫本として出版されたことも、学生をはじめとする若い読者層が気軽に古典に触れる機会を提供し、初期の売れ行きを支える重要な要因となったと考えられます。
では、なぜ売れ続けたのか?
