📬 ロングセラー通信
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本書は、作家・開高健による釣りに関するエッセイ集です。アラスカのキングサーモン、カナダのノーザンパイク、モンゴルのイトウなど、世界各地の巨大魚との格闘を、独自の力強い筆致で描いています。単なる釣りの体験記にとどまらず、それぞれの釣行を通して、現地の自然環境、そこに生きる人々との交流、そして「食」という行為が克明に記されています。釣りという行為を媒介として、生命の根源、人間と自然との関係、そして自身の死生観にまで迫る深い思索が展開されるのが特徴です。読者は、壮大な自然を舞台にした冒険譚として楽しむと同時に、著者の哲学的な洞察に触れることになります。
『フィッシュ・オン』が発売された1974年当時に売れた理由は、主に3つの要因が複合的に作用した結果と考えられます。第一に、時代背景として、高度経済成長が一段落し、人々が物質的な豊かさから、自然との触れ合いや趣味を通じた精神的な充足へと価値観をシフトさせ始めた時期であったことが挙げられます。第二に、著者である開高健が、すでに芥川賞作家やベトナム戦争の従軍記者として絶大な知名度とカリスマ性を持っていたことです。その彼が「釣り」という趣味を、文学的かつ哲学的なスケールで描いたことは、既存の釣り専門書とは一線を画し、多くの知的好奇心旺盛な読者を引きつけたと推測されます。第三に、当時はまだ海外旅行が一般的ではなかったため、アラスカやカナダといった雄大な自然を舞台にした物語は、読者に未知の世界への強い憧れを抱かせ、強力な代理体験を提供したと考えられます。これらの要因が、本書を単なる趣味の書籍ではない、新たなジャンルの読み物として市場に受け入れさせたのではないでしょうか。
では、なぜ売れ続けたのか?

(1974年)