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本書は、歴史学者・石母田正が古典文学『平家物語』を歴史学的な史料として読み解き、その背後にある中世日本の社会構造を分析する一冊です。単なる物語の解説ではなく、作品が成立した鎌倉時代初期の歴史的文脈に着目し、物語に登場する武士や民衆の姿を史実と照らし合わせながら考察します。作者は誰か、どのようにして成立したかといった文学的研究に加え、武士団の力学、封建社会への移行といった歴史的ダイナミズムを、物語の記述から浮かび上がらせることを試みています。文学と歴史学を架橋し、『平家物語』という作品を通して、日本中世社会の実像に迫ることを目的とした学術的入門書です。
本書が1957年当時に広く受け入れられた背景には、戦後の歴史学界と社会の知的好奇心が交差した点が挙げられると考えられます。当時、アカデミズムではマルクス主義歴史学が大きな影響力を持ち、歴史を英雄の物語としてではなく、社会構造や階級の動態として科学的に分析する視点が主流でした。著者の石母田正は、その中心的な歴史家の一人です。
多くの類書が『平家物語』を文学作品として情緒的に解説する中で、本書は作品を「史料」として扱い、武士団の成立や封建制への移行といった歴史的メカニズムを解明する斬新なアプローチを提示しました。この「科学的な古典読解」は、戦後の新しい価値観や教養を求める読者層の知的好奇心に強く応えたと推察されます。専門的な歴史学の成果を、信頼性の高い岩波新書というフォーマットで一般向けに提供したことで、古典への新しい扉を開く一冊として多くの読者を獲得したのではないでしょうか。
では、なぜ売れ続けたのか?

(1957年)